4. 心無い人の存在、罪と罰

 滞在3日目、撮影も全て終わり、スタッフも全員引き上げてもらった。
 羽島に残るのは皐月達、親族と瑞葵くんに
 メイクのお姉さん・津和野亜紀さんだけである。
 亜紀さんは、子供好きという事もあって、すぐに榮たちと仲良くなった。
「巽ちゃん、ちょっと手を貸してみて?」
「何?」
「いいから、じっとしてて…」
 亜紀は巽の指にマニキュアを塗り始めた。
「爪の形が綺麗だからやり易いわ…ほら、こうすると…ね?」
「花…」
「そう、お花。可愛いでしょ?」
 巽はこっくりと頷く。それを見て、榮は嬉しくなった。
 巽が嬉しそうにしているのを見ると、何故か心が温かくなるのだ。
「榮、巽って可愛いネ?」
 目をパチパチとさせながら佳那が言った。
「うん…?」
 榮は同意するものの不思議そうに佳那を見た。
(佳那ちゃんだって十分可愛いと思うけどな…)
 割と近くでパンパンッと弾けるような音がした。
「花火かな?」
 窓から海岸の方を覗うが花火は見えなかった。
「きっと爆竹を鳴らして遊んでるのよ。サーファーの人達かしら?」
 昼間、海岸にたくさん居たサーファー達は、
 子供の目から見てもマナーが悪く感じられた。
「爆竹って何?」
「あぁ、音だけの出る花火みたいなものよ。人に向けると危ないのは同じだけどね?」
「ふ〜ん…」

 次の日、一日中森の方で遊んだ。
 森の中に洞窟があって、小さくて、すぐに行き止まりになってしまったけど、
 都会では味わえない喜びに子供達は大はしゃぎした。
「楽しかったね〜♪」
「水浸し…」
「あ〜それは、俺だけだよ…」
 榮は先頭を歩いていて、そこそこ深さのある水溜りに落ちたのだ。
「でも、巽ちゃんと佳那ちゃんが濡れなくて良かったけどね?」
「僕、落ちてもヘイキ。ダイジョブなの!」
「ダメダメ、女の子は危ないコトしちゃ…」
 佳那はその言葉を聞いてムッとし、榮の腕を捕まえ、草むらに連れ込んだ。
 そして、上着を脱いで見せた。
「僕、男なんだケド…確かめる?何ナラ、下も脱ぐ?」
「いいっ!遠慮しとく!お願いだからヤメテ!」
 榮は動揺しつつも、佳那が、服をこれ以上脱がないように取り押さえた。
 今まで榮は完全に佳那を女の子だと思っていたのだ。
 しかも、「巽ちゃんに佳那ちゃん、女の子二人で両手に花♪」
 とか思っていただけにショックだった。
 良く考えれば、佳那は撮影のとき以外はスカートを履いていなかったし、
 一人称も『僕』と言っていたではないか。
 冷静になると、自分の思い込みに頭が痛くなった。
「これで2回目じゃないか…」
 榮の呟きはため息へと変わった。

 夕食の時、榮は皐月に噛み付いた。
「何で、佳那ちゃんが男だって教えてくれなかったのさ!」
「アンタ訊かなかったでしょ?それに、気が付かないのも問題あると思うわよ?」
「うっ…」
 榮の負けだった。
「それと、さっき連絡あって…実行くん、明後日の夜には来れるって!」
 皐月が笑顔でそう言った。
「ホントに?やったぁ〜!」
 榮はすっかり元気を取り戻した。つくづく単純に出来ている。

 その夜、浜辺で遺体が発見された。

はじまりの夏・5へ続く。